この事例の依頼主
男性
相談前の状況
結婚後間もなく自宅を新築しました。転居費用や交際費が嵩み,生活費が不足したときに借金を始めました。夫婦共働きでしたが,奥さんが産休・育休のため休職して返済計画に支障を生じ,借金が増えていきました。奥さんの職場復帰にあわせて自動車を買い替えたためにローンが増えましたが,収入が安定しているので問題がないように思えました。借金の返済は続けていましたが,債権者の数が多く返済金の多くが利息に充当されるので,なかなか元金が減りません。あれこれ考えた結果,借金の一部をまとめることにし,銀行で合計500万円を一本化してもらいました。銀行から500万円を借りて複数の信販会社に借金を返済したという意味です。ところが,これによって完済した信販会社の借入枠が空いた分,再度カードを利用して,一挙に借金が膨らみました。返済に行き詰まって債務整理を決断しました。相談時は,住宅ローン残約750万円,その他の債務約900万円(8社)。夫婦の収入を合算すると1か月約40万円でした。
解決への流れ
住宅ローン特則を利用した小規模個人再生を申し立て。住宅ローンの返済は借入時の条件のままで変更はしませんでした。900万円の借金5分の1に当たる約180万円を毎月5万円,3年間で弁済する計画を立てました。本件は,債務の一本化に応じた銀行が,債務整理のために一本化に協力したにも関わらず,その後他社から再び借り入れたことに腹を立て,再生計画案への不同意を予告していましたが,かろうじて要件を満たし,再生計画は認可されました。
破産を選択して免責許可決定を得ると,住宅ローンの返済義務も他の債務と同様に免れますが,その代わりに,マイホームは手放さなければなりません。しかし,住宅ローンを支払うのでマイホームを残したいという場合には,民事再生法の住宅ローン特則を利用します。住宅ローン債権者と返済条件を変更する交渉をすることもできないわけではありませんが,簡単には応じてもらえない印象です。本件では借り入れ当初の条件のままで返済を続ける計画になりました。破産でなく民事再生を選択するもうひとつのケースに,免責を許可されないと予想される場合があります。この場合には破産を選ぶことができないので選択肢は限定されます。本件で,借金があり,債務を一本化したのにこの事情を黙ったまま更に借入をしたことが免責不許可事由に該当するならば,民事再生を選択するほかなかったことになります。債務の一本化に応じた銀行が再生計画案に同意しなかったのは,再生が許可されず,破産に移行するものの免責が許可されないために負債の全額を払わなければならなくなることを狙ったのかも知れません。いわゆるおまとめローンを組んで債務を一本化する場合は,返済した金融機関との以後の取引を絶つことが不可欠です。返済したことで借入枠ができるだけでなく,返済能力があると評価して金融機関は貸してくれるので,すぐに借入枠に手を出してしまうということは昔からいわれています。なお、日本貸金業協会のデータによると,多重債務関連相談のうち,最も多かったのが複数借入で,平成28年度は全体の22.5%だったそうですから債務一本化の需要は高いようです(因みに、病気・ケガが14.3%、失業・リストラが13.1%、収入減が12.7%です(「平成28年度における返済困難理由の内訳」から)。)。