この事例の依頼主
60代
・相続人2名(1/2:1/2)・遺産 不動産複数(高額物件)、金融資産:預貯金と株式評価額ベースで、不動産:金融資産=8:2・相続開始後、相手方固有の資産はなく、相手方が高額物件の不動産に居住して取得を希望して居座り、換価分割の要求にも代償金の支払請求にも全く応じなかったため、こちらから遺産分割調停を申し立てました。
遺産分割調停では、遺産の範囲及び法定相続分には争いはなく、分割方法のみが争点となりました。相手方が単独取得を希望する高額の不動産物件については、代償金の捻出が難しい状況であったため、こちらからは、換価処分した上で法定相続分2分の1ずつに分割することを主張していましたが、現に居住している相手方は頑として譲りません。遺産総額が1億円を超えていて相続税の納付が必要な事案でもありましたが、調停がまとまらず納期限が迫ってきていましたので、ひとまず納税資金捻出のため金融資産のみ先行して一部分割を行なうなども余儀なくされました。その結果、代償金に充てるべき預貯金等がさらに減少していき、ますます代償分割が困難になり、いよいよ換価分割しか道がない状況になっていきましたが、相手方は、頑なに代償分割(しかも代償金はごくごく低額)を主張し続けました。早期に解決をしたいと考えていた依頼者が、時間を要する換価分割を断念し、代償分割案に応じることになりましたが、代償金も高額に上ることからその支払確保のため、私の方で次の調停案を提案して相手方にも受け入れさせて、何とか調停を成立させることができました。【調停内容】相手方に対する代償金請求権を被担保債権として、当該不動産を単独取得する相手方が同時に当該不動産に抵当権を設定することとし、相手方は、代償金の弁済期(支払期限)までに任意売却に努め、売却できた場合は、被担保債権分について依頼者が優先弁済を受け,残額を相手方が取得する。期限までに買い手が見つからなければ、抵当権者である依頼者において抵当権を実行して競売にかけて代償金を回収する、というものです。後日、弁済期までに買い手が見つかったため、不動産の売買決済と代償金債権全額の回収が実現したというものでした。
預貯金よりも不動産が遺産総額の高い割合を占めているような事案では、相続人の誰かが単独所有を主張し、話合いでの換価分割が(審判は別として)難しい場合には、代償金の確保が困難になるケースが多いと思われます。そのような案件では、本来、不動産がいくらで売れるかによって換価分割で得られる金額は変動するわけですが、本件のように、あらかじめ代償金額を設定しておき、これを被担保債権として不動産への抵当権設定を求める、というやり方も有用かと思われます。この手法の利点は、不動産の売却価格が低くなっても、あらかじめ設定していた代償金額は確保できる点です(逆に、不動産が予想外に高く売れても、得られる代償金が増えるわけではないという点もありますが、相手方にとっても高く売るインセンティブに働くため、結果オーライといえるでしょう。)。相続人が3名以上となった場合には、今度は設定する抵当権の順位で他の相続人と揉めるかもしれませんが、債権回収の側面を含めて依頼者にもご満足頂けた解決でした。